2017年5月16日火曜日

この世の中で…

今日の1限は原価計算論の講義。
私はこの授業で,練習問題を合計30回くらい出題し,うち20回分を回収し,1回につき最大1.5点の平常点を付与している。
つまり合計30点分が平常点となる。
この授業では,10年位前までは,平常点の対象は,その練習問題だけであった。
中間試験が30点で,期末試験が40点というのは変わりはないが,平常点については当時は悩ましい課題があった。
どうしても友人の答案をのぞき込んだり,写したり,答えを教えてもらったり…
いわゆる不正行為が散見されたのだ…
厳密に管理しようにも私一人では限界があるし,あまりにも厳しくすると,授業の雰囲気が悪化しすぎて,授業がギスギスなりすぎる。
そこで,原価計算には直接的には関連しないが,間接的には関連していて,学生が少しは関心を持ってくれそうな,理論的なクイズのようなもの(TAIと呼んでいる)を20回ほど実施するようになった。
例えば以下のようなもの。
「どうして日本では,給料の支払額を計算する際に,例えば,前月の20日から当月の21日までを対象としたりして,暦上の一ヵ月間と対応していないことが多いんだろう?」
私にも正確な答えは分からない。
しかし,お年を召された会計士の方などから,お話をお伺いしたりして,何とか「こんなことが原因じゃないかな」ってのに目星をつけた。
そして,サザエさんにでてくる御用聞きのサブちゃんを引き合いに出したりして,学生たちの思考を刺激して,なるべく多くの人間が考えれば,何かが書けるように促している。

練習問題のなかには,どうしても経理研究所専門学校などに通っていない学生には,すぐにその場では解けないものもあるであろう。
どうしても制限時間内に解答することが間に合わないこともあるかもしれない。
原価計算の初学者の人が遅刻したり,やむを得ない事情で休んだりしたりすると,そういったことが起こりやすい。
しかし,TAIは会計的知識をすでに有しているか否かに関係なく,考える力を発揮すれば,何とか答えられるものである。
TAIも1回を1.5点としたので,これについても平常点は最大30点をゲットできることになる。
練習問題との関連は,こうである。
つまり,練習問題での平常点の獲得得点と,TAIでのそれとを比較し,高い方がその人の平常点となるようにしたのである。
そして,学生にはこう言ってきた。
TAIは比較的甘めに採点をするから,練習問題で「ズル」はするなって。
そんな自分を貶めるようなことをするなって。
そんなことをしなくっても,平常点は十分TAIでゲットできるからって。
練習問題は,純粋に自分がその日の授業内容を理解できたか否かを判断するために取り組みなさいって。
そして,こうも言う。
この世の中は,矛盾や理不尽なことに満ちている。
それは一人ひとりがこの世の中における自分の責任を果たさずに,少しずつ「ズル」をするから,それが積もり積もって,この世の中の不条理は根強く存在し続け,我々の前に時として巨大な津波のように迫ってくる。

例えば,以下の「弱い虫」の主人公は,周囲の「ズル」のせいで,不条理という津波に家族ごと飲み込まれてしまったわけだ。
https://www.youtube.com/watch?v=IhCIkPfIHyM

たかが大学の授業の練習問題ごときで,ズルをして欲しくない。
社会に出てから恐らくほぼすべての人間が,絶望的な理不尽さや矛盾を体感するんだ。
ひょっとしたら,この世の中は,いっそ死んじまったほうが楽だと思えるくらい,矛盾に満ちていると感じるかもしれない。
たかが大学の授業でのズルが癖になり,社会の矛盾や理不尽の数多ある源泉の一つになって欲しくない。
人間はそんなに簡単に変わることができんのだよ。
私の授業も,たかが大学の授業の一つだが,そこでは自己の責任を果たした人間を正当に評価したい。
そのためならば,私は一部の学生に唾棄されようと,30回の授業で合計「40回×200数十枚」の練習問題・TAIの採点に膨大な時間を費やそうと,まったく構わない。
もともと教員が学生に好かれようなんて思うこと自体が間違っているとすら思っている。
嫌われてナンボ,それでいい。

いずれ今の学生たちも親になり,子供をもつであろう。
そして,その子の将来に思いを致したとき,この世の中がどうあって欲しいと考えるだろうか。
その時に,自分のそれまでの人生を,自信をもって振り返ることができるであろうか。

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