もう今はいない…
谷川俊太郎『はだか』
「おとうさん」
だれのかおもみずにおとうさんは
まっすぐまえをみてごはんをたべている
ごはんのゆげでめがねがくもっているので
おとうとがそういったら
うんとこたえてめがねをしゃつのすそでふいた
おとうさんがなにをかんがえているのか
わたしにはわからないけれど
わたしのことではないとおもう
おとうとのことでもおかあさんのことでもない
なにをかんがえているのときけば
べつにというにきまってる
まえにおとうさんのこどものころのしゃしんをみた
ひろいのはらのまんなかにたって
まぶしそうにのはらをみあげていた
いまでもときどきにたようなかおをする
おとうさんのはしがさといもをつまんだ
くちをあけたらおくのきんばがみえた
おとうさんずっといきていて
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