2018年7月17日火曜日

オープニング

司馬遼太郎の『坂の上の雲』。
高校生の頃,むさぼるように読んだ。
何度も読んだ。
大河ドラマも全部,見た。
渡辺謙のナレーションが最高。
このナレーションを聞くと,体からエネルギーが湧いてくる。

https://www.youtube.com/watch?v=sqhCtr15FQE

まことに小さな国が,開化期をむかえようとしている。
小さな,といえば,明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう。
産業といえば農業しかなく,人材といえば三百年の読書階級であった旧士族しかなかった。
明治維新によって,日本人ははじめて近代的な「国家」というものをもった。
だれもが「国民」になった。
不馴れながら「国民」になった日本人たちは,日本史上の最初の体験者としてその新鮮さに昂揚した。
この痛々しいばかりの昂揚がわからなければ,この段階の歴史はわからない。
社会のどういう階層のどういう家の子でも,ある一定の資格を取る為に必要な記憶力と根気さえあれば,博士にも官吏にも軍人にも教師にもなりえた。
この時代のあかるさは,こういう楽天主義から来ている。

今から思えば実に滑稽なことに,米と絹の他に主要産業のないこの国家の連中がヨーロッパ先進国と同じ海軍を持とうとした。
陸軍も同様である。
財政の成り立つはずは無い。
が,ともかくも近代国家を創り上げようというのは,もともと維新成立の大目的であったし,維新後の新国民達の「少年のような希望」であった。
この物語は,その小さな国がヨーロッパにおける最も古い大国の一つロシアと対決し,どのように振る舞ったかという物語である。
主人公は,あるいはこの時代の小さな日本ということになるかもしれない。
ともかくも,我々は3人の人物の跡を追わねばならない。

四国は伊予松山に三人の男がいた。
このふるい城下町にうまれた秋山真之は,日露戦争が起こるにあたって勝利は不可能に近いといわれたバルチック艦隊をほろぼすにいたる作戦をたて,それを実施した
その兄の秋山好古は,日本の騎兵を育成し,史上最強の騎兵といわれるコサック師団をやぶるという奇蹟を遂げた。
もう一人は,俳句,短歌といった日本のふるい短詩型に新風を入れてその中興の祖になった,俳人正岡子規である。
彼らは,明治という時代人の体質で,前をのみ見つめながらあるく
上ってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲が輝いているとすれば,それのみを見つめて坂を上ってゆくであろう。

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