私自身,研究を職業としているが,お金のために研究をしているという意識は,過去に一度も持ったことがない。
楽しいからするし,逆に言うと楽しくないことは研究しない。
だから,時間が経つのを忘れることもある。
もちろん,なかなか進捗せずに苦しむこともあるが…
没頭し,時間の概念から解き放たれ,気づいたらあっという間に時間が経過していた…
これをかつてエドワード・L・デシは「普通に存在している以上の状態」と呼び,内発的動機づけという心理的構成概念に昇華させた。
デシは言う。
この普通に存在している以上の状態に達することこそ,何かに取り組むにあたり最も重要なことであり,それがない人生など人生ではないとすら言う。
渡辺ゼミの研究においては,各ゼミ生,この状態に達してほしいと常日頃願っている。
3年生のグループワークのテーマは3つある。
①中央大学サッカー部の社会貢献活動の価値を測定し,その結果を踏まえて大学スポーツ活性化の提言につなげようとしている。
プロスポーツ組織はさておき,大学スポーツにおいて,その社会貢献活動の価値を見える化しようとする研究は皆無。
非常にオリジナリティが高いし,意欲的な取組み。
研究成果は,大学当局者の前で,また日本大学スポーツ協会などで,プレゼンさせてもらい,政策立案に活かしてもらいたいくらい。
このグループのメンバー6人のうち,4人は体育会所属。
自分たちの関心事に基づき研究を行っている。
②Jリーグクラブの倒産リスクを算定し,リーグやクラブへの政策提言につなげようとしているグループ。
一般企業の倒産リスク算定モデルに当てはめると,Jリーグクラブは実は危機的なくらい倒産リスクが高い。
いつ潰れてもおかしくないくらい。
が,実際に破綻しない。
なぜか?
そこからこの研究は出発している。
スポーツファイナンスの領域は,日本では研究蓄積が非常に少ない。
現在,Jリーグクラブのヒアリング調査を鋭意実施中。
目標は10クラブ。
既に2クラブには実施し,アポがとれているのが2クラブ。
おそらく目標は達成できる。
③心理的安全性の効果のメカニズムを解明しようとしているグループ。
心理的安全性と言えば,今やよく聞く概念。
とにかく高めることが大事だと喧伝されている。
が,果たしてそうなのか?
ネガティブな影響はないのか?
この辺の疑問からこの研究は出発している。
現在,心理的安全性を起点として,最終的に組織パフォーマンスに及ぼす影響メカニズムを解明しようとしているが,終点のパフォーマンスにはポジティブな影響とネガティブな影響の双方を及ぼしていると大胆に仮定するモデルを構築中。
心理的安全性には良い面と悪い面がある。
その両方に目配りしないと,パフォーマンスは上がらない。
実践そして学術面に,なんと大きなインプリケーションをもたらすことか。
彼らの研究を見ていると,私も楽しい。
ゼミ生も楽しんでほしい。
普通に存在している以上の状態に到達してほしい。
心からそう願っている。


