2021年10月8日金曜日

 贈るうた

27年前の結婚式の際に友人からもらった詩集がある。

吉野弘の「贈るうた」。

その中に「生命」という詩がある。

今、詠んでも実に素晴らしい。

多様性を許容する世界じゃなきゃならない。

強くそう想う。


生命は

自分自身では完結できないように

つくれらているらしい

花も

めしべとおしべが揃っているだけでは

不充分で

虫や風が訪れて

めじべとおしべを仲立ちする


生命は

その中に欠如を抱き

それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分

他者の総和

しかし

互いに

欠如を満たすなどとは

知りもせず

知らされもせず

ばらまかれている者同士

無関心でいられる間柄

ときに

うとましく思うことさえも許されている間柄

そのように

世界がゆるやかに構成されているのは

なぜ?


花が咲いている

すぐ近くまで

虻の姿をした他者が

光をまとって飛んできている


私も あるとき

誰かのための虻だったろう


あなたも あるとき

私のための風だったかもしれない

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