2021年3月6日土曜日

失くして想う

もう今はいない…


谷川俊太郎『はだか』

「おとうさん」


だれのかおもみずにおとうさんは

まっすぐまえをみてごはんをたべている

ごはんのゆげでめがねがくもっているので

おとうとがそういったら

うんとこたえてめがねをしゃつのすそでふいた

おとうさんがなにをかんがえているのか

わたしにはわからないけれど

わたしのことではないとおもう

おとうとのことでもおかあさんのことでもない

なにをかんがえているのときけば

べつにというにきまってる

まえにおとうさんのこどものころのしゃしんをみた

ひろいのはらのまんなかにたって

まぶしそうにのはらをみあげていた

いまでもときどきにたようなかおをする

おとうさんのはしがさといもをつまんだ

くちをあけたらおくのきんばがみえた

おとうさんずっといきていて

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